ほにゃ★うぃき


三人の俗物

_ 【三人の俗物】(第1話)

三人の男が町を歩いていた。名前を田儀、荒木、細越という。怠惰で身勝手、強者にへつらい弱者をくじく、容姿がさえなく頭もさえない。言うまでもなく金がなければ女もいない。類は友を呼ぶと言うが、地球サイズのメガフォンを使って世界三大ダメ男を世界中からかき集めたと言っても過言ではないような組み合わせだ。彼らが一緒にいる理由は一つ。三人でいるときは劣等感を感じないからだ。友情は美しい心に宿るもの。こんなさびれた心に芽生えるわけもない。

田儀「あの男、えらく羽振りが良さそうやな・・・」

荒木「どうせ汚い仕事でもしてるんでしょ。やろうと思えば俺だってできる。」

細越「どうせ俺たちのこと負け組とか思ってるんだろ。人間心だけは綺麗なままでないとな。」

こうして街行く人の誹謗、中傷、あらさがしをするのが彼らの日課だ。

続く

_ 【三人の俗物】(第2話)

しばらく歩いていると3人は古めかしい古書店を見つけた。

田儀「あれっ? こんな所にこんな店あったっけ?」

田儀はこういうのに敏感である。

細越「わかんね~でもうす暗くてなんか気味が悪いな・・・」

細越は案外怖がりだ。

荒木「幽霊屋敷だったりして・・・違うかっ(パシッ)」(注1)

荒木はスベる。

細越があまりにも怖がるので、おもしろがって田儀と荒木はこの本屋に入ることにした。人がおののく姿ほど見ていて愉快なものは無いのだ。

続く

(注1)パシッは手をたたく音

_ 【三人の俗物】(第3話)

中に入るとそこには所狭しと本が並んでいた。いつの時代、どこの国かもわからないような本が立ち並ぶ。三人は棚と棚の間のわずかな空間を奥へと進む。

細越「入ってしまえばそんなに怖くないね。」

荒木「じゃあここに住めば?・・・違うかっ(パシッ)」

田儀「・・・この本・・・」

語りかけるようにその本は三人の視界に飛び込んできた。黒いハードカバーの本。タイトルは無い。無造作に手に取り本を開いた。

続く

_ 【三人の俗物】(第4話)

本を開くとそこには占いとか魔術とかそんなことを連想させるような印、呪文のような言葉などが記されていた。パラパラとページをめくり全容をとらえる。要約するとこうである。『この本に書かれているある条件を満たすと願い事がかなう』

荒木「そんなうまい話あるわけないじゃん。」

否定的な荒木。しかし、田儀と細越は論理的に考える。そしてこう結論付けた。「幽霊屋敷のようでありながらも霊験あらたかな雰囲気をかもしだすこの書店に立ち並び、なおかつこんな本の山の中でひと際異彩を放ち三人にその存在を知らしめるオーラを持ったこの本に書かれた魔術に効果がないわけがない」と。

田儀「おもしろそうやん。試してみよ。」

細越「まぁ確かにリスクもないし。暇つぶしくらいにはなるんじゃない?」

こうして三人は本を購入した。

続く

_ 【三人の俗物】(第5話)

三人は田儀の家で本を精読した。そして魔術のための道具集めをする計画を始めた。ろうそく、花、ガラス玉などの簡単に手に入る物はすぐに買った。しかし、中にはそうではないものもあった。例えば犬、猫の首などがそうだ。常人の神経を持ち合わせていたならこんな眉唾物の本を信じて動物を殺したりはしないだろう。だが、この三人にそんな道徳は通用しない。三人は狂ったように儀式のために物を集め続けた。そして儀式を行うまであと一歩のところまできた。残る必要なものはあと一つ。『人間の死体』であった。

続く

_ 【三人の俗物】(第6話)

さすがにこの三人でも人を殺すことはできなかった。ボタン一つで人を抹殺できるならなんら躊躇することはないだろう。しかし、実際はそうもいかない。あまりにリスクが高すぎる。

とはいってもここまできて諦めるわけにもいかなかった。安全に死体を手に入れる方法を探す。

田儀「とりあえずググってみるわ~」

田儀はすぐgoogleに頼る。ちなみに細越はYahoo派である。検索の結果、田儀は有用な情報を手にする。

田儀「これ使えるんちゃう?」

田儀が発見したページには数多の都市伝説が書き込まれていた。その中にこんな記事が。

『北千住の○○というアパートの下には生徒に銃殺された体育教師が埋まっている』

三人はさっそくその日の深夜に北千住に赴くことにした。

続く

_ 【三人の俗物】(第7話)

アパートは廃屋と化していた。三人にとっては好都合、侵入し穴掘りを始める。

深夜、シャベルの音色が闇にこだまする。

細越「クッ・・・もう駄目だ。とても掘り進められない・・・」

田儀「これは諦めるしかないか・・・」

現実をつきつけられ空を仰ぐ三人。意気消沈し、退却を余儀なくされた。だが、そこに一人の男が現れ事態は急変する。

男「おまえさんたち、そんな掘り方じゃ土は応えてくれないぜ・・・聞こえないか? 土とシャベルが喧嘩している・・・」

そう言って男はシャベルを奪い穴を掘ろうとする。

細越「無駄だよ。三人で協力したがそこからは1cmたりとも進めなかった。」

しかし、次の瞬間、細越に電流が走るっ! 男が地面をひと掘りするやいなや、土が天高く舞い上がった。もうひと掘り、さらにもうひと掘り・・・またたく間に穴の深さは3mにも達した。

荒木「お前・・・何者・・・?!」

男「俺はカドヤ、真の穴を掘りに来た・・・」

音色に誘われて再び闇に舞い降りた天才カドヤ。これが新たなる伝説の序章。

続く

_ 【三人の俗物】(第8話)

天才カドヤのシャベルさばきを三人は固唾を飲んで見守る。黙々とシャベルを地面に打ち付ける。この時すでにカドヤは後に穴掘り三大原理として知られる原理の一つをつかんでいた。穴掘りはいかにシャベルを打ち付けるかではなくその逆、いかに土を舞上げるかである。数分後、ついに金塊を掘り当てることに成功する。土砂とともに一人の男の亡骸が宙に舞う。体中に蹴られたような傷跡がある。死に様一つで生徒との間に相当な確執があったことが見てとれる。

荒木「お前、カドヤとか言ったな・・・いったいどうやったらこんな芸当ができるんだ?」

カドヤ「土の声に耳を傾ける・・・それだけだ・・・」

不敵な笑みを浮かべるカドヤ

細越「馬鹿を言うなっ! 土の声が聞こえるとでも言うのか?!」

カドヤ「あぁ、それくらいの感覚がなければこの数年を生き延びることはできなかった・・・お前たちはノイズに惑わされて聞こえないだけだ・・・この大地の躍動・・・」

そう言ってカドヤはまた穴を掘り始めた。

細越「おい、もう用は済んだんだ、もうこれ以上掘る必要はないっ!」

カドヤ「まだだ・・・まだ終わらせない・・・上限いっぱいまで掘る・・・!」

田儀「お前っ、これ以上は危険だっ! 死ぬぞっ!」

カドヤ「面白い、この死線、渡って見せよう・・・」

死の淵へと向かって走りだしたカドヤ、伝説の闘いはこれから始まる・・・

続く

_ 【三人の俗物】(第9話)

三人は清の死体を家へと運ぶ。ちなみにカドヤは生き埋めである。

田儀「さてと、物は揃ったし、儀式の準備にとりかかりますか。」

三人は分担して作業にとりかかる。本にかかれた通りに絵を描き、物品を並べる。もうすぐ願いがかなうのかと思うと自然と笑みがこぼれる。

細越「おまえは何を願うんだ?」

田儀「そうやな~俺なら一生遊べるくらいの金がほしいかな~」

荒木「俺は絶世の美女かな・・・違うかっ(パシッ)」

細越「なるほど・・・」

そんな会話をしているうちに儀式の準備は整った。入念に見直しをするが間違いはない。完璧だ。そしていよいよ魔人を呼び出す呪文をとなえる。

田儀、荒木、細越「ルケヌガケトンカイラマノホパンテログロイ」

ボンっ・・・うさんくさい効果音とともに魔人が現れた。

続く

_ 【三人の俗物】(最終話)

魔人「よく私を呼び出してくれた。お前たちの願い事を叶えてやろう。ただし一人につき願い事は一つまでだ。」

魔人の登場に歓喜する三人。そして、それぞれ悔いのないように熟考を重ねる。

田儀「俺は・・・やっぱり金やな・・・」

荒木「俺は金より女だ!」

細越「う~んやっぱりその二択だよな~俺はもうすこし考えるわ。」

細越は慎重に慎重を重ねる。そういう性格だ。細越の決断が遅いのでとりあえず二人は先に魔人に願いを告げることにした。

田儀「俺は金が欲しい。一生遊べるくらい・・・そうやな、1兆円をくれ。」

魔人「承知した・・・」

魔人が手をこすり合わせる。すると、部屋中に大量の紙幣が広がった。本当に1兆円分あるのかは定かではない。しかし、これを一生かけて使えといわれても途方に暮れるような、そんな大金が現れた。札束の海にダイブする田儀。その様子を見てたまらず荒木も叫ぶ。

荒木「俺は女が欲しい。とびっきりの絶世の美女だ。何年たっても美しく、それで性格も良くて、彼氏がいる間は絶対浮気もしないような、そんな女をくれ!」

魔人「承知した・・・」

すると今度はまぶしいほどの美女が現れた。あまりの美しさに言葉を失う荒木。感じるのは全宇宙の美を独り占めしたという満足感、優越感。

魔人「さて、あとはお前だけだ。何が願いだ?」

田儀「この金は俺のやからな! 欲しかったら自分で頼めよ。」

荒木「世界平和でも願ったら?・・・違うかっ(パシッ)」

細越「そうだね・・・よし決めた・・・」

魔人「何が願いだ?」

細越「この二人・・・田儀と荒木をこの世から消してくれ」

魔人「承知した・・・」

すると二人は跡形もなく消えてしまった。また、役目を終えた魔人も本と共に消えた。残されたのは大量の金と絶世の美女。細越は札束をひと掴み懐に入れると、美女を連れてまだ闇の支配する夜の街へと消えていった。

終り produced by 海P小谷

Counter: 1173, today: 1, yesterday: 0
 
Link: トップ(1718d)
Last-modified: 2019-08-22 (木) 20:56:47 (1718d)